あらほうしブログ

好きなお笑いの事と日々の雑感を綴りたいと思ってます。

「天才はあきらめた」を読んで

 

南海キャンディーズ山里亮太さん、山ちゃんの、芸人を志してから今に至るまでの軌跡を記した著作。

 

本当に面白かった。

 

読み進めながら、山ちゃんの思いが伝染するように、笑ったり、泣いたり、呆れたり、嫉妬したり、忸怩たる思いになったり。

 

そして山ちゃんデビュー当時にはすでにお笑い好きだった私は、本のエピソードに出てくる時期ごとの笑い飯や、千鳥、麒麟とろサーモンネゴシックスや、そして南海キャンディーズを懐かしく思い出していた。

 

「すごく面白い男女コンビが出てきましたよ!」

 

南海キャンディーズを知ったのは、お笑い好きの、私が学生時代属していた某大学柔道部の一年後輩からのメールでだった。

 

当時私は、子どもが小さくてとてもじゃないけど劇場には行けないし、深夜が多い若手のお笑い番組をすべてはフォローできず、周りでは数少ないお笑いファンの後輩が貴重な情報源だった。

 

とはいえ後輩も社会人として多忙な日々を送っており、メールの頻度はすっかり減っていた。

が、この情報だけは伝えたい!と、M-1 2004の前にメールをくれたのだった。

 

M-1はもちろん毎年欠かさず観ていたし、DVDも持っている。

こんなメールをもらって楽しみにしないはずはない!

 

私の中でかなりハードルが上がった状態で観たM-1南海キャンディーズのネタだったのだけど、彼らは私のハードルを易々と超えてきた!

 

とにかく面白かった。そして新しかった。

 

ボソッと放たれるしずちゃんの突拍子もないボケ、そしてそのインパクトを超えてくる山ちゃんの表現力豊かなつっこみフレーズの数々。

 

しかしもちろん、この時の漫才が「易々と」作られたものの訳はなく、この漫才を生み出すまでに血の滲むような努力を重ねてるし、この時のM-1準優勝を機に飛躍的に活動の場が広がり、別の苦悩の日々が待っていた事が、本からまるで呻き声が聞こえてくるかのように書かれている。

 

仕事が一気に増えてクオリティが追いつかないという苦悩の他に、山ちゃんに待ってたのは「たいして努力もしないしずちゃんのみが売れていく」という嫉妬。

 

山ちゃんがこの本の前半部に散々書いている「劣等感をガソリンにする」という信念すら忘れてしまう苦悩の中で、引退を決意した山ちゃん。

 

そんな中で出演した千鳥、大悟さんのライブでは、周りのパスもあって「劣等感をガソリンに」にして大きな笑いを取り、大悟さんに「こんな面白いやつが辞めてええんか」と言われて引退を思い留まる。

 

ふと思い出した。

 

もう10年以上前になるのか、私は後藤ひろひとさんのブログを知ってからというもの、毎日のように楽しみに読んでいたのだが、その中で山ちゃんは「ジェラ男」という名前でたびたび登場した。ジェラはジェラシー、嫉妬のこと。

 

後藤さんは、山ちゃんは「嫉妬」が凄く、それが彼の最大の魅力だ、と書いていたのを覚えている。彼はそのままでいい、と。

 

「劣等感をガソリンに」した彼の才能や努力の結晶は、実はかなり早くから色んな人に認められていたようだ。

 

芸人さん達は、千鳥のような感性の発露そのままのような漫才を高く評価し、お客さんの笑いを取りに行くような漫才を低く見るような傾向があることは薄々気づいている。

 

でも双方ともそれぞれの良さがある。

前者の方が「上等」だとは、私は思わない。

 

芸人さんにとってはきっと、とにかく自分が見たい、やりたいと思う漫才をやることが、観客の爆笑につながるのが一番最高であるはずで、全然アプローチが違う千鳥と南海キャンディーズが、紆余曲折を経てそれぞれの理想形に近づいているような気がして、やはりこれからもお笑いシーンから目が離せそうにないな、と改めて思うのだった。